1993年、ルワンダに生まれた。そして、2歳で人生が終わった。
もちろん、僕自身の話ではない。偶然見つけた無料の人生シミュレーション『80億分の1』で体験した、もうひとつの人生だ。
遊んでみると面白い。でも、それ以上に驚いたことがある。こんなサイトを、たった一人の運営者がAIと一緒に作っているというのだ。 プログラミングの知識がなくてもゲームやアプリを作れる時代。そして、その流れは実際に手で触れられる製品へも広がろうとしている。
『80億分の1』って、どんなサイト?
『80億分の1』は、世界のどこかに生まれ、一人の人間として人生を送る無料のシミュレーションゲーム。国連、WHO、世界銀行などの統計を参考にした人生を疑似体験できる。
生まれる時代や抽選方法などを選び、「生まれる」を押す。どんな国の、どんな家庭に生まれるかは自分では決められない。進学、仕事、恋愛、家族、健康、お金などの出来事が起き、ときには選択を迫られる。人生の終わりには、その一生を振り返れる。
僕が遊んだときには、1993年のルワンダで2歳で人生を終えたあと、インドで生まれた女性として83歳まで生きた。後者の人生では財産を残せなかったけれど、家族や友人に囲まれて最期を迎えた。寿命や資産だけで幸福は決められない。そんなことまで考えさせてくれる。
遊び方は難しくない
- 公式サイトを開き、人生の条件を設定する。
- 「生まれる」を押し、もうひとつの人生を始める。
- 年齢を重ね、進学や仕事などの選択をする。「おまかせ」を使うこともできる。
- 人生の最後に、結果や思い出を振り返る。
最初は細かいことを考えず、おまかせで体験しても面白い。登録不要で基本的な人生シミュレーションは無料。戦争や病気、死など重いテーマを含むため15歳以上向けだ。『80億分の1』を遊んでみる →
これを一人で? AIによる個人開発のすごさ
公式の利用案内によれば、運営は「Jin’s Earth」。AI「Claude」と協力して文章やプログラムを作り、何を採用するかは運営者自身が決め、改良しているという。
感心したのは、単に文章を生成するのではなく、出生地で変わる人生、選択肢、所得や資産のグラフ、人生の記録、振り返りの画面が一つの体験としてつながっていること。データを読む情報から、自分で選び考える物語に変えている。
AIが大量のコードを書けることよりも、個人がこれほど複雑な体験を形にできるようになったことに驚いた。 制作費や時間、すべての工程を一人で担ったかは確認できない。それでも個人開発の可能性を感じる作品だ。
バイブコーディングは、ここまで来た
AIに「こんなアプリを作りたい」と自然な言葉で伝え、生成されたものを動かしながら修正する。この開発スタイルはバイブコーディング(Vibe Coding)と呼ばれる。2025年にAI研究者Andrej Karpathy氏が広めた言葉だ。
僕自身も、プログラミングの知識がほとんどない状態から、AIを使って旅行の勉強用アプリを制作した。問題の表示方法や操作性で苦労したけれど、「ここを直して」「こう表示して」と頼みながら形にしていけた。先に作って、必要になった知識をあとから学ぶという順番も成立する。
AIは、もう初心者の補助役ではない
コード補完にとどまらず、複数ファイルの修正、エラー調査、テスト作成、画面設計、デザイン実装など、高度な仕事までAIが担うようになった。熟練エンジニアに匹敵する成果が得られる課題もある。
ただし「AIはあらゆる面で天才プログラマーを超えた」と言い切るのは早い。何を作るべきか、どの技術を選ぶか、どう品質と安全を保証するか。人間の判断と責任は残る。
むしろ僕が注目するのは、発想と実現の距離が縮まったこと。技術や資金が足りず諦めていた人も、まず試せるようになってきた。次の面白い作品を作るのは、プログラミングの熟練者だけとは限らない。
誰も使わないアプリだって、作ればいい
これまでソフトウェア開発は高価だった。大勢の利用者がいて開発費を回収できるものが優先された。でもAIによって試作の負担が小さくなれば、発想が変わる。
旅行好きの自分だけが使う寄り道提案アプリ。家族だけが使う旅行の思い出整理ツール。友人との旅行で一度だけ使うクイズゲーム。利用者が一人でも構わない。「売れるか」より先に「自分が使いたいから作る」が成立する。
もちろんAIの利用料や運用費はゼロではない。それでも、大勢に売れないから作れなかったものを、個人の楽しみのために作れる意義は大きい。
次は画面の外へ。バイブ・マニュファクチャリングとは?
さらに面白いのは、AIによるものづくりの変化がパソコンやスマホの画面の中だけで終わらないこと。AIと対話して実際の製品を設計し、形にしてしまう。そんな流れをバイブ・マニュファクチャリング(Vibe Manufacturing)と呼ぶ動きがある。
ソフトウェアとの違いは、設計図だけでは完成しない点。部品の加工、調達、組み立て、動作確認が必要だ。それでも個人が挑戦できる環境は変わった。
- JLCPCBなど、設計データから見積もりを取り小ロットの基板製造を注文できるサービス
- ESP32など、Wi-Fi通信が使える比較的安価なマイコン
- 個人向けにも使いやすくなった3Dプリンターによるケースや部品の試作
AIに回路やプログラム、ケース設計を手伝ってもらい、部品を発注して組み立てる。以前なら専門的な技術や設備が必要だったものづくりに、個人でも手が届きやすくなった。ただし、納期や費用は仕様・業者・地域により異なる。電源、発熱、耐久性などの安全確認も欠かせない。
例えば、こんなものを作れたら
旅の写真をボタン一つで整理する小さなデバイス。植物の水やり時期を知らせてくれる装置。子どもが触って遊べる、自分で考えたおもちゃ。既製品を買うのもいいけれど、自分だけのこだわりを形にできたら面白い。
少人数向けだからと製品化されなかったものにも可能性が広がる。ただ、製造・販売には安全基準や品質管理が必要だ。まずは自分で使う低リスクな試作品から始めたい。
まずは、自分だけの小さなアプリを作ってみよう
ここまで読んで「面白そうだけど、難しそう」と思った人もいるかもしれない。僕も最初はそうだった。けれど、最初から『80億分の1』のような大きな作品を目指さなくていい。
「週末の行き先を決める小さなウェブアプリを作りたいです。予算、所要時間、気分を選ぶと、おすすめの過ごし方が表示される仕組みにしてください。プログラミング初心者にもわかるよう、試し方を順番に教えてください。」
ChatGPTやClaudeに、まずはこんなふうに頼んでみる。表示が崩れたり、ボタンが動かなかったりしても、その場で相談しながら直せばいい。個人情報を扱う場合や一般公開する場合には、セキュリティと動作確認が必要だ。
最初の目標は、すごいアプリを作ることではなく、自分のアイデアが動く瞬間を体験すること。 それだけでも世界の見え方が変わると思う。
「作れる人」が増えた世界で、何を作ろう?
僕は、これからインターネットがもっと個性的になるのではないかと思っている。みんなが同じアプリを使うだけでなく、自分や家族、仲間のために、小さなものを作る。便利なサービスも、くだらないゲームも、少し変わった実験も。
ASOBIONでも、情報を読むだけではなく、実際に遊び、考え、試せる場所を増やしたい。そして何より、自分でも作ってみたい。
『80億分の1』を遊んで感じたのは、人生の不思議さだけではなかった。「こんなものを作りたい」と思ったとき、以前よりずっと簡単に最初の一歩を踏み出せる時代になったこと。
次の面白いゲームやアプリを作るのは、これまでプログラムを書いたことのない人かもしれない。もちろん、この記事を読んでいるあなたかもしれない。遊ぶ側から、作る側へ。ちょっと挑戦してみませんか?
※2026年10月17日時点の情報をもとに執筆。『80億分の1』内の人物や出来事は統計を参考に生成されるフィクションです。将来の技術動向には筆者の予想を含みます。







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